無茶も茶 蓑半農軒、茶の湯覚え書

蓑進著。

茶道具商が、自分の顧客であった大正昭和の数寄者の思い出を語った本。

熊倉功夫「近代数寄者の茶の湯」が茶道史として数寄者を書いたのに対し、こちらは自分史である。

学者である熊倉は数寄者達の業や生臭い部分にも筆を走らせていたが、商人が客の悪口を言う筈はない。本書は暖かな筆致で、素晴らしいお客様との出会いを描いている。つまり、毒が無くて物足りない。でも暴露本ではないから仕方ないか。

個人的にツボったエピソードは、いつもお詰めの人を正客にしたら、濃茶をいきなり飲み干してしまった、というお話。なんともほほえましい。

本書では「大正末〜戦後」の数寄者が対象である。熊倉がカバーしていた「明治末〜戦前」とは違う顔ぶれになり、興味深かった。