表具屋渡世泣き笑い

小池丑蔵/三樹書房/1985年。

表具屋さんのいろいろ赤裸々話。でもいくらなんでも赤裸々すぎるざます。失敗ごまかし話がおおすぎるざます。

例えば画讃の表具し直しの時に文字が欠落してしまったのをごまかした話。

中国には、日本で使われていない文字がいっぱいある。だから、というわけではないがどうにも読めない。これもさんざん迷った末に、讃の文字の一部分ずつを抜いて文字を合成し、欠落した部分へはめ込んだ。

…こんなこと書いて大丈夫か?

いろんなノウハウ、業界の常識も判って面白い。

一幅の掛軸を作る手間を表具職人は一日半と見ている。

表具屋は、貴重な時代ものの掛軸の修理や汚れ落しの場合には依頼主と相談して、失敗した場合の賠償額をあらかじめ決めておくのである。

こうした場合に、私たちに日本の表具屋はジアスターゼを水に溶かして塗りつける。


支那バーという安い裂地。画商からの注文はいつもこれ、って話。

こんなに安く製作費をケチっておきながら、展示即売会へ行ってみると倍の値段で売られているからビックリする。自分が作った掛軸だから表装料はむろん分かっているし、絵の値段も長年の経験で大体の検討がつく。分からないのは画商の心臓だけだ。

あと、「ギャラリーフェイク」でもやっていた二枚剥ぎのお話も扱ってやすぜ。表具屋は二枚剥ぎで儲けてんじゃね?って話に対し:

紙は二枚に剥げても上下の色彩は同一ではない。たとえ墨で描いた絵であっても、一枚剥ぎ取った後の絵は見るにたえないほど色彩の薄いまだらなものになって、とても売り物にも鑑賞用にもなるまい。

だが、別の場所ではヤバイ手口に関し紹介している。

書画の本物の落款を抜き取って二枚にはいで一つを本物に戻し、一つをニセ物へ嵌め込む。

名筆でない、どーでもいーよーな字を軸にする仕事が結構あったり、表具していてなんかその書が欲しくなったり、表具屋のリアルがなんか伝わって来て面白い。

文章も読みやすいしこの本は面白いですよ。

ところで2008年にこの著者の別の本が出てんだけど、この著者存命かつ現役なのか?96歳だぞ…?

表具屋渡世泣き笑い

表具屋渡世泣き笑い