クツクツと
その『松屋会記』に、とてつもなく長い長い他会記が載っている、伝説のセッションがあります。
久重会記、寛永十七年卯月十五日、亭主は細川三斎。
この会、道具組や料理が多いのではなく、三斎の語る昔語りが大量に記載されていて、とてつもなく長い他会記になっているのです。
三斎は織部と桑山左近に関するこんなエピソードについて語ります。
織部と左近にはどうやら仲が悪かった時期があったのですが、織部の茶会に呼ばれた三斎は相伴に左近を同道させようとします。
左近は「いや、俺が行っていいか織部んとこに使い出して聞いてよ」くらい言って抵抗したんですが、三斎はガン無視です。
んで織部んちへ到着。二人は顔を合わせます。
織部モ左近殿ト云ヒ、左近モ忝シト云、
なんともぎこちなくご挨拶。
その時、織部は風炉の所で手間取っていたので、三斎は「炭は適当にどうぞ」ぐらいの事を言ってあげたわけですよ。
でも織部は客の前で悠々と仕上げて水屋に戻って障子を閉めた。
で一同は炭を拝見したわけですな。んで三斎、その炭の見事さにびっくりします。
炭抑見事、風呂内、加様ニモ成事ニ哉、但、是ニモナン(難)アルカ左近ト、三斎云ハ、
「すンげーなこれ。これなんか文句付けようある?左近」と三斎は聞いた訳ですな。
左近答云、扨モ/\見事成事哉、驚目候、織部殿数奇上リ、事之外見事二成申候ト云ハ、
左近は「さすが織部さんっス。レベル高ケーっス」みたいな事を叫んだワケですよ。
障子ノ内ヨリ、織部クツ/\トフキ出シ笑候也、左近モ笑、我等モ笑、皆々大笑ト御物語リ也、
それを水屋で聞いた織部が、障子の向こうでクツクツと吹き出し、最後一同大爆笑となった、というお話。…多分、二人のわだかまりも融けたんでしょうな。ちょっと『へうげもの』の絵で浮かびます。織部の笑い声を記録した、という稀有な記録でもあります。
織部の、なんというか、可愛い得意気、みたいなものが伝わっていい感じです。
男ってなんかイイな、とも思えるエピソードでもあります。
*1:ちなみに自会記を混ぜセレクションしたものが『茶道四祖伝書』ね