歴史

実山の動機

南方録には、大別して三つの位置付けがある、と私は考えている。 実山が入手した真の利休茶書である。 実山かその周辺が書いた偽書である。 誰かが書いた偽書で、実山はだまされたのである。 場合分けとしてはこんなもんであろう。九州の事蹟が多いなどの理…

南方録の会記に頻出する「ス」の一文字。これは「又」であり、「そして」程度の意味であり、一般的な風習ではない(でなきゃいろんな研究者があーでもないこーでもないといわない)が、実山の周辺では行われてきた記述法である、という。 これはおそろしいこと…

神屋宗湛と毛利輝元

昨日の話について、さらに疑問が出たのでここに記す。神屋宗湛の曾祖父は岩見銀山を開いた人物で、毛利家とは縁が深い。 宗湛日記にも毛利家の人間との茶会は再三出てくる。 お得意先といってもいいだろう。慶長4年2月7日にも、宗湛は安芸宰相つまり毛利輝元…

千家

千利休という名がある。 茶道史上ではあまりにも有名だけど、茶をやっていない人にも知られた名である。でも、宗易が公の場で利休と呼ばれていたか確たる証拠はないらしい。たしかに大体の史料では「宗易」だもんね。でも宗易には利休であってもらわないと、…

会記から見る茶室と炉

三つの会記で茶室の間取りと炉のサイズがどう扱われていたか調べてみた。そこからの結論。茶室が広間の囲いから、六畳敷の茶室に転換されたのは永禄年間。それが二畳敷などの小間に発展したのは天正十年以前。炉に関してもりやはり永禄年間から一尺四寸炉へ…

ゆがみ中柱と袖壁

数寄屋に関して勉強してきて、一つ疑問ができた。我々が台目の茶席で慣れ親しんでいる、中柱と袖壁と、あと壁の透かしの発明は、いつ、誰によってなされたのだろう?利休は1畳半座敷を作ったと伝えられているが、壁は上から下まで塗ってあり、ゆがんだ中柱で…

黄瀬戸の謎

黄瀬戸は室町末期、お茶の盛んになりはじめた頃にほんの一瞬流通し、廃れた茶道具である。当時の作で茶陶として作られたもので伝世したのは1碗のみ。残りは向付の転用である。これはどういうことなんだろうか?黄瀬戸が転用するほど良いものであれば、茶人達…

旧一条別邸恵観莊2

さて茶室の間取り。現在のソレは以下から見れる。http://ekan-sanso.jp/visits.html「京都美術大観 茶室」に収録されていた間取りは以下の通り。 比較すると、上下の板の間が畳敷に変わっており、縁側の構造もずいぶん追加されている様だ。長炉の有る位置が…

旧一条別邸恵観莊

「ヨッシーのとうちゃん」さんから旧一条別邸恵観莊の情報を頂く。感謝。http://ekan-sanso.jp/history.html 武家文化の所産がいまも色濃く残る古都鎌倉。相模湾に注ぎ込む滑川上流に、後陽成天皇の第九皇子であり、摂政・関白を二度務めた一条恵観(兼遐・…

義政と秀吉

「足利義政が、東山銀閣寺で茶の湯をはじめた。その宗匠として珠光を招いた」という話は、どこまで遡れるのだろうか?私の知る限りは、山上宗二記が最古なのだが。もし、それ以前にはこの話がなかったとしたらどうだろうか?つまり、利休たちが作ってひろめ…

人治と法治

利休の賜死に関しては、石田三成との対立が世にいわれるところである。「公儀のことは秀長に、内々のことは宗易に」というもやっとした人治主義に対し、性格のきっちりした三成が対立し、庇護者でもある秀長の死をきっかけに、対立が表面化。結果利休は死ぬ…

阿波千家

徳島には、千道安の墓があるという。 http://www.city.tokushima.tokushima.jp/bunka_sinko/siminisan_meguri/gaiyo20.html道安が徳島で死んだ、という話ではない。まぁ有名人の墓なんて、慕う人の数で増えるので、それは問題ない。 でなきゃあまりに多くの…

首里城鎖之間

沖縄の首里城には、鎖之間(さすのま)という空間がある。以下、首里城のホームページより。 http://oki-park.jp/shurijo/guide/55 鎖之間は王子などの控え所であり、また諸役の者達を招き懇談する、御鎖之間(おさすのま)と言われる広間がある建物である。 …

三千石

千利休は、豊臣政権下で三千石の祿を喰んでいたという。これは75人の兵士を軍役で出さなきゃいけない石高である。 まぁ捨扶持だろうけれど。 でもこれって本当だろうか?本当ならどこの土地を領有し、代官は誰で、何か由緒あるものがその土地に残っていたり…

南坊録と曲尺割

ちょっと本自体からは脱線する。南坊録のカネワリ。なんでこれが南坊録の象徴、みたいになっているのだろうか? もちろん、南坊録そのものの「墨引」に書いてあるからである。 御坊ハ深切ニ工夫シテ、如此問尋ラルヽコト、我等か鴎ヘノ心入ヨリマサレリ。 イ…

「おらが茶の湯」の位置付け

日本の茶書2の解説にこうある。 箒庵がこの書において「茶の湯は趣味なり」と喝破したことは、長く茶の湯を精神修養の具とみなしてきた常識を一新する自由な見方であった。 明文化したのが偉い。というのは認める。しかし、明文化したかどうかは別として、箒…

光悦七種

光悦七種にはなぜか二種類在る。ひとつは A:不二山、雪峰、障子、鉄壁、毘沙門堂、雪片、七里もうひとつは B:加賀光悦、雨雲、時雨、紙屋、鉄壁、有明、喰違である。なぜか鉄壁だけ共通。 でもなぜ二種類あるんだろうか? それぞれの茶碗の来歴を調べてみ…

利休を巡る色々6 センノリキュウの誕生

千利休を「センノリキュウ」と読むのは不敬である。だから「センノリキュウ」は「当時としては」実在しなかったのだ、と私は思う。では「センリキュウ」はどうか?利休は居士号で、在家の仏徒である。 居士号は居士号単体で呼ぶものだと思うのだが、名字の田…

利休を巡る色々5 センノ

利休と秀吉には奇妙なねじれがある。利休は「センのリキュウ」と呼ばれる。 秀吉は「トヨトミヒデヨシ」と呼ばれる。本来、千利休は単に「センリキュウ」であり、賜姓の豊臣氏である秀吉は「トヨトミのヒデヨシ」と呼ばれるべきなのに、である。 ここからは…

利休を巡る色々4 千という名字

利休は秀吉政権のブレインとして活動していた事が知られている。しかし彼はあくまでも市井の商人である。 後年千家は、「千家由緒書」で田中家を里見家の血を引く(つまり徳川と同じ新田源氏である)と説明しているが、あくまでも大名家出仕の為の方便であろう…

利休を巡る色々3 居士

次に居士号についての疑問。利休居士号が禁中茶会の遥か以前からあったのではないか?という話ではない。 そっちはどうでもいいと私は思う。 私には居士号は「無位無冠」をなんとかできるような公式なものだったのだろうか?という点が気になる。 宮中に行く…

利休を巡る色々2 参内と昇殿

まず居士号を考えるにおいて、その前提である「無位無冠だから参内できない」という前提が本当か考えてみたい。 まず、参内と昇殿の違いについて考える。昇殿は、天皇の政治場所である清涼殿へ上る、ということ。 参内は単に御所に行く事から昇殿までを含む…

利休を巡る色々

千利休。田中与四郎/千宗易が利休と呼ばれる様になったのは、天正13年の禁中茶会がきっかけである、というのが定説。つまり「無位無冠では禁中茶会に出る際に困るので、居士号として貰ったのが利休の名」である。兼見卿記 天正13年10月7日にはこうある。 次…

下克上

利休の最初の妻、宝心妙樹は三好長慶の妹だったという説がある。 ネットではちょこっと見掛ける話だが出典は判らない。なんかの小説由来かもしれない。出典も根拠も明らかでない情報を流布するのはデマを再生産する馬鹿のやることではあるが、面白い説なので…

各服

各種記録から考えると、濃茶が廻し飲みになったのは、天正十年以降。それ以前のお茶は、各服点てだった筈だ。しかし、各服点てではあまりに時間がかかるのではなかろうか?例えば、松屋会記の天正以前の記録。「台子+釣釜」ブームの頃の客組でも相客5名とか…

慶長20年(1615年)。 大阪夏の陣の過程で堺は焼亡した。 堺が徳川方に協力的だったから豊臣方に放火されたのだという。大阪城の南の平野が主戦場なのだから、小堀遠州が岡山で集めた兵糧は当然堺港に陸揚げされた筈。 豊臣方の処置は適切だったと思える。 で…

茶人達の大阪の陣

木村宗喜がらみで、大阪冬と夏の陣で茶人がどうしていたか調べてみた。 古田織部。徳川方。 燕庵を剣仲に譲り出陣(とはいえ実は燕庵が正確にいつどうやって譲られたのか藪内家でも判らないらしい)。息子の一人は徳川方として討死。そこまで尽くしたのに戦後…

赤松前司貞村

昨日のこちんこ、じゃないや、こちこの話で思い出すのが、南方録の以下の記述。 青磁雲龍御水サシノ故実、休ノ物語ニ云、 永享ノ比、普広院殿御病中、禁裏ヨリ御園ノ御茶ツカハサレシ時、 鎌倉ナスヒ御茶入、花山ノ御天目、青磁雲龍ノ御水サシ、三種ヲツカハ…

利休七哲について

江岑夏書にある利休弟子七人衆について、昔疑問を書いたことがある。http://d.hatena.ne.jp/plusminusx3/20120207 なぜ利休の弟子が大名ばかりなのか? なぜ嫌いな織部を含めるのか? この辺謎だったんだけど、近世茶道史を読んで、ちょっと頭の整理ができた…

高橋箒庵と護国寺

高橋箒庵は、護国寺に茶室を寄贈し、他人にも寄贈させ、不昧の墓を作り、ここを東都の茶の総本山にしよう、と考えていた。 その甲斐あってか、護国寺は、東京で最もメジャーな大寄せの会場になったと言えるだろう。 が、それだけ。 大徳寺の様な茶との繋がり…