まぼろしの南方録

岩井護/講談社/1976年。

颱風の季節も過ぎて、瀬戸内の海もこのところ穏やかな日が続いている。一艘の船が、夜の港にその巨体を黒々と浮かべていた。

から始まる、なんと立花実山が主役の歴史小説


利休の秘伝書の写しを進呈したい…書状を届けた謎の美女。誰が、なんの為に実山を誘い出そうとしているのか?


ミステリアスに始まる本作は、福岡藩黒田家のお家騒動を軸に、立花実山と南方録の秘密にせまって行く。


誰が書いたのか?なぜ実山に渡したのか?
南方録の利休はなぜ聖人君子の様な男なのか?


そういった点にも本作はそれなりに説得力のある答えを用意してくれている。


実山はなぜ殺されたのか?
貝原益軒はなぜこの政変で無傷だったのか?


そういった点にも本作は切り込んでくれている。


ただし、主題はお家騒動の政治の不条理の方で、南方録の秘密はそれにからんだ添え物に過ぎない、かもしんない。

また、本作品での実山は権勢を誇る政治家というより、お家騒動の中で流されて行く被害者の様な描かれかたで、若干カタルシスに欠けるかも。立花寧拙が二刀流で立ち回るようなシーンも無い。

地味な話と言えば地味な話なのだが、ぐいぐい読ませる筆力は感じられる。あと、この作者、茶書をかなり勉強しているのか粗が見付からん。結構すげえぜ?


まぼろしの南方録 (1976年)

まぼろしの南方録 (1976年)

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