懐石料理とお茶の話 八百善主人ものがたり9 茶道具屋

この本には売る側として、骨董商 近善商店の竹内善次さんがゲストになっている回がある。

竹、どうもそれでなくても我々業者は贋物をお素人におつゝけて居る様に思われますので誠にお話がしにくいのですが、又私がお話したことで、業者−註、同業者とい云う意味−が誤解されても困りますね。

と、「茶道具屋なんて詐欺師じゃん」みたいな事を言われたくないのか若干おっかなびっくり話は始まりますが、竹内さんの思い出話は業者間の化かし化かされの話ばっかりだったりします。


難のある赤絵をライバルに買わす為にいろいろ仕掛けてから入札会を開いたりとか、ね。

そんなエピソードの一つ。

これも親爺の若い時のことです。
京都の焼物師に玳皮盞(たいひさん)の贋物を五枚焼かせたのが(中略)うまく出来たので、その中で一番うまく出来たのに古みをつけて、箱に入れて之を大阪の山中吉郎兵衛さんの処へ持つて行きました。
吉郎兵衛さんと云う人はあの大阪の山中商店の元祖で偉い人で(中略)一杯くわしてやれと云う気持ちで乗込んだのです。
すると吉郎兵衛さんがつく/゛\と茶碗を見て「之はいくらだ」と云うことでした。
親爺はうまくいつたつもりで、本物に近い値をいつたのでしよう。すると「そうか、それではこの一枚は云い値でいたゞいとくが、あと何枚やいたかね、あるだけ元値で持つといで」と云われたので、親爺は「はアッ」と云つて恐入つて了つたそうです。

…茶道具屋なんてやっぱ詐欺師なんじゃん。