へそ茶16 自畫自拝 下

(前略)
今回鈍翁北海道巡視に就ては先づ砂河を訪問すべきは必然なりと見て取りたる平田徳太郎氏は、鈍翁の随行にて盲茶會員に其人ありと知られたる平田越々山人と諜し合せ、前以つて鈍翁に申入れ、砂河に着到の節は社宅に於て何はなくとも一服差上げんと言へば、茶と聞いて鈍翁の喜一方ならず、斯くて當日社宅の廣間に通りて見れば、
(中略)
更に進んで床の間を見れば、竹に雀の墨畫一幅掛かりたるが、墨氣生々しく表装も亦古からず、紙中に落款なければ何人の筆とも見分かざれども、察する所近來流行する古畫の贋作に相違なし、其畫風より見れば松花堂として一杯喰はされたる者ならんと、鈍翁先づ早合點して主人の眼識を憫笑しつゝ、

北海道へ来た鈍翁を迎え撃つ平田。随行の越々山人と共謀し、早速自宅へ鈍翁を招いた。

鈍翁が床の間を見ると、竹に雀の絵。
表装や墨から近作とみて、こりゃ松花堂の贋作だなと主人の鑑定眼を笑いつつ:

殊更丁寧に一禮して御名幅眞に恐れ入りましたと、感服の體宜しく、又々幾度か禮拝して座に着くや、傍の越々子を顧みてニヤリと笑ひ、主人は松花堂の積りだらうネと小聲でささけば、情を知りたる越々は可笑しさを怺えて御鑑定通りならんと答ふる折柄、主人立出でゝ濃茶手前ありけるが、主人は前夜越々より急稽古したりと云ふ茶人なれば、湯と茶が別々にて飲むべくも非ず、鈍翁當惑の餘り、主人より茶筅を借受けて自ら之を掻き廻し、是れで宜しとて喫み了れば、主人は只管其手前の不調法なるを詫び、

わざわざぴしっと礼をして「すばらしいお軸恐れ入りました」と畏まってみせ、さらに床になんども礼をしてから定座についたが、こっそり隣の越々にニヤリと笑い掛けに「こりゃ松花堂のつもりだろうね?」と囁くと、内幕を知っている越々は笑いを堪えて「そうでしょうね」。そんな中濃茶手前が始まった。

しかしあんまりにも下手な手前で、結局鈍翁が自ら茶筅を振る事に。
亭主は無調法をわびつつも:

更に鈍翁に向つて床の一軸の御鑑定如何と問ひけるに、鈍翁微笑を含みながら無論松花堂と拝見しましたと答ふるにぞ、主人は越々と顔見合せて一度にドツと噴き出す、

「ところで床のお軸の鑑定はどうですか?」
「勿論松花堂と見ました(ニヤニヤ)」

という所で一同爆笑。

鈍翁變だなと感附きて能く/\其掛物を見れば、先頃八木岡春山に就いて窃に墨畫を稽古したる其下書にてありければ、餘りの事の不思議さに呆れて物も言はれぬ體なり、斯くて段々樣子を探れば、平田氏は小田原に赴きたる時、人知れず鈍翁の反古紙を偸み取り、之を表装してマンマと鈍翁を欺きたるにて、四五年振にて小田原の敵を北海道にて取りたる次第なりと云ふ、

変だと思った鈍翁がよくよく見ると、小田原で画家八木岡春山に教わってこっそり練習してきた自分の墨絵の下書き。

平田は小田原出入りの際にこっそり盗みだしていたのだ、というお話。


…自分の絵を「松花堂でしょう」と言っちゃったのはかなり恥ずかしい。
当然言い触らされるわけだし。つーか箒庵に書かれちゃうわけだし。


あと最後に尾篭な事を書くけど。

「ウンコ」の話を「紙」で始末をつけた、というのが粋なのかもしれん。

…言いすぎだな。