へそ茶15 自畫自拝 上

江戸の敵を長崎ならで、小田原の敵を北海道で報いたる一場の茶談は即ち此自畫自拝の椿事にぞありける、
益田鈍翁曩に小田原板橋の里に掃雲庵を營むや、別墅の裏手、松並木の長露地を箱根の舊街道に見立て、來客を古風の山駕籠に乗せて、雲助が駕籠を昇きながら、箱根八里は馬でも越すがエーと聲を揃えて、

小田原の敵を北海道で、というお話。

鈍翁が小田原掃雲庵の長露地を東海道に見立て、客を山駕篭で移動させた。

唄ひつゝ露地の半分程登り行く其前面に、百姓一人肥擔桶を荷ひて立ちけるが、向ふより薪を負ひたる馬を曳きつゝ、馬子の下り來て、行き違いざま突當り、馬は驚き肥擔桶は顛覆すると云ふ大騒動に、忽ち一場の喧嘩が持ち上りたれば、

駕篭が進む前面に、肥桶を担いだ百姓が進み、向こうからは薪を積んだ馬を曳く馬子。すれ違いに失敗して、馬は暴れ肥桶は転覆する大惨事。喧嘩まで始まる始末。

駕籠中の客は一驚を吃し如何はせんと心配する折柄、雲助が飛び出して止男と爲り客も金湯の御相伴を免れて辛うじて掃雲庵に着すれば、此露地中の珍事が一座の談柄となりて、喧しきを、庵主は何喰わぬ顔して目を圓くしつゝ聴聞する一場の喜劇を仕組みたるにも慊らず、
(略)

駕篭の客はどうしようと思っていた所、雲助が飛び出して仲裁した。
客も流れ出すソレから逃れてなんとか掃雲庵に付き、このお話が話題となったが、鈍翁は自分で仕組んだことなのにそれを目を丸くして驚き聞いていた。


長いから原文略するが、その後、客は退席時に門の外で門付けの女芸人が居たのでおひねりをあげたが、あまりにうまいので驚き、よくよく見れば新橋の顔なじみの芸妓。

この辺で全員が

扨ては百姓馬方の喧嘩も亦皆狂言にてありつるかと、今更心附くものから、折もあらば一番復讐して庵主に一泡吹かせんと思ひ定めし者もありしが、

「あぁ、あの喧嘩も肥桶ひっくりかえったのも仕掛けだったのか!」と気付き、復讐を考える人もいる始末。

考えてみりゃ茶会の日の鈍翁私有地の露地に、百姓や馬子がうろうろする方が異常だよなぁ。

其後左る機會もなくて此恨を晴らす者なく、數年其儘に打過ぎけるに、三井物産會社札幌市店長平田徳太郎氏は矢張庵主に魅せられたる一人にて、人知れず其報復手段を講じ居る者の如く、過日益田鈍翁が北海道巡回として、砂河木挽工場に赴きたる時、マンマと一杯御馳走して、

そういう機会もないまま数年過ぎたが、平田徳太郎氏がまんまと一杯御馳走するというお話。

原文も2話構成なので、続きの復讐譚は明日。