正倉院ぎれ

松本包夫/學生社/1982年。

この本は、正倉院展や種々の書物などで正倉院ぎれの実物や写真をみて、その全体像をもっと知りたいと思う人のために書いた、いわば正倉院ぎれの入門書である。

とまぁこういう本。

出袱紗とかで正倉院裂とかいう名前に親しんできたが、「じゃぁ正倉院裂ってなんだろう」というと説明できない事に気付く。

この本はそれに応えてくれる…ようなそうでもないような。

正倉院ぎれは、現在までに整理されたものだけで十七万をこえる。
そのうえまだ整理のつけられていないものもかなりある。とにかく遺存量が滅法多いのである。

正倉院裂が、それほどの分量を持ったコレクションだとは知らなかった。


この時代の布地のコレクションとしては正倉院に大量、法隆寺に少々。
それ以外のものも別の場所で列挙されている。

1 中宮寺蔵天寿国繍帳
2 大阪府叡福寺蔵の古ぎれ類(緑綾袍、獅噛連珠円文刺繍、繍仏残片ほか)
3 当麻寺蔵綴織当麻曼荼羅
4 京都山科勧修寺旧蔵刺繍釈迦如来説法図(現在国有、奈良国立博物館蔵)
5 東大寺蔵葡萄唐草文染革。ほか同寺所蔵の古ぎれ若干
6 唐招堤寺蔵方円彩糸花網。ほか同寺所蔵の古ぎれ若干
ざっと以上のとおりである。
しかしこのうち、1はひろい意味で法隆寺系に入るし、2も江戸時代に法隆寺から叡福寺へ譲られたもの、5はいうまでもなく正倉院ぎれともとの出自において縁戚関係にある。

要はこの時代の布の研究対象のほとんどは正倉院にあるという事らしい。
正倉院のコレクションの方向にバイアスが掛かるよなーと思う。

この大量の染織品は、したがって内容的にさまざまな特徴をもっている。
しかし、それらの特徴のなかで、いまとくにいっておきたいのは、その大部分が八世紀中葉の、おそらく国産品だったろうということである。

ええぇー?正倉院っていえばシルクロード経由でやってきた異国情緒たっぷりの舶来品コレクションちゃうん?という所がスタートなのがなかなかびっくり、である。

正倉院ぎれの大部分がなぜ国産と考えられるかについてはのちに述べる。

という事らしいので、そこはまた明日以降。