水を飲むべし

サンデー毎日編/毎日新聞社/1925年。

水の効用を説いた大正末の健康書。

水は百藥の長

醫學士 高原 憲

『水は中る』とは永い間因襲的に深く人々の頭に刻まれて醫家でさへ水を怖れることが甚だしい。
夏に向ふと内務省の訓令で『生水をのむな』といふ宣傳が始まる。
私が今こヽに水の功徳を唱へて水飲の反對宣傳を始むるに當り世人一般には勿論醫家の頭にも叛逆的な響を輿へるであらうことは十分覺悟してゐる。

では、どういう効能があるか。

私は『チブス』患者が水によりて死に瀕したることを知らない。九死に一生を初めて水の功徳によりて得たことはよく傳へられる事實である。
(略)
多年頭痛に惱む人がある。ことに婦人に多い。そしてそれ等の多くは便秘に傾ける人である。

まぁチフスコレラの脱水症状の緩和と、便秘の予防くらいのことしか書いていない。
これはこれで正解だが、

読者投稿では、どういうわけか脚気が直ったとか、安産だったとか、眉唾なものも含まれている。

1925年は脚気ビタミンB1欠乏症が原因、という事が結論された年だった筈なのだが…。


では、水の何がいけないと思われていたと言うと:

健康體にも水 平瀬三七雄
(略)
世人の生水恐怖の第一原因は『水は病毒の根源だ』といふ先入主によるものらしい。

水は黴菌が入っていて、下痢の原因。だから茶か湯冷ましを飲め、と思われていたということらしい。

対策としては

一日一升の水で胃腸病を全治 平賀敏
(略)
この頃井水消毒劑として漂泊粉の有効な事が説明されてゐる。
(略)
私はこの實驗を聞いて以來常に漂泊粉を持つて歩く事にした。

…この生兵法は危険な気がする。



お茶が盛んだった大正期の日本。
その頃の水事情は「生水を飲む事が冒険」だった。

上水道が完備し、下水道も普及した現代にはよくわからなくなっている事なので、敢えて読んでみた。