美術骨董品投資の秘訣16
偽物の話、というより詐欺の方法。
ところが、いわゆる仕込物などより、うんと金を惜しまずに、本物にも優る衣裳を着せて極めて大がかりに贋せ物を作つた例が二つある。
その一つは当時世間を驚かせたいわゆる春峯庵事件である。
これは、徳川時代の肉筆浮世絵を、極めて精巧に贋作し、表装、箱等も時代の材料を使つて入念に施し、誰が見ても本物としか思えない程に立派に仕上げたものを、或る大家の秘蔵品と称して、当時浮世絵の権威者であつた文学博士笹川臨風のところへ持ち込み、まんまと博士を瞞着し、その推薦状を作らせて、世間に発表したのである。
金を掛けて偽造し、権威まで騙して箔をつけた例。
現在でもこの春峯庵ものが市場へ時折姿をみせることがあるが、いかにも精巧に出来ている。
(略)
これらは、日本人だけでなく、外人筋へ売れてゆくのかもしれない。
考えてみれば罪の深いことをしたものである。
どうしてこの偽造が見破られたのか、というのは残念ながら書かれていない。
今一つの大がヽりの贋せ物は富岡鉄斎の作品が多数作られ、それが堂々と東京で展観せられた事件である。
それは殆んどことごとくが鉄斎晩年の青緑絹本極彩色の豪華なもので、立派な表装が施され、白昼堂々と東京の真ン中で富岡鉄斎遺作展覧会という看板をかヽげて売り出されたのである。
これはそのあまりの豪華さに心ある人はすぐに気がついたらしい。
完全に詐欺だが、足のつきやすそうなやり方ではある。
この場合は堂々としているのがミソだろうけど、立派すぎたのが敗因か。
本物の画集の一頁を贋せ物の写真と取り替えて、その変造の画集をつけて売られている鉄斎の贋せ物もあるそうである。
ここまでやられるとさすがにひっかかりそう…。
本当にあの手この手である。