益田さんの深謀遠慮

私のお茶/藤原銀次郎より。

藤原銀次郎が茶の道に入ったいきさつ。

さて、縁あつてわたしがお茶の道に入つたいきさつは、三井物産における益田さんと社長社員といふつながりからであつた。
(中略)
それも最初は不承不承、いや、それどころではない、世の中にお茶なんてケシカラヌものはないと敵視しながら、とどのつまりは、極めて巧妙にその擒にされをはつたのである。

茶にはまって出社してこなくても社長は社長。社長宅に社長決裁を得に行かねば成らない。ムカツキながら社長宅に行くと、そこで、お茶に誘われるわけである。

「あんなニガイものは眞ツ平です」
とにべもなくことわる。ところが、益田さんはそれぐらゐで、決して逃されない。
「お茶はニガイかも知れぬが、お茶の懐石料理はうまいものだよ。そいつだけでも、みんな一つどうだ。」
(中略)
「どうだ、口にあふかね、これがお茶の方で苦心するケチンボな料理だ。よかつたら又ちよくちよく來給へ」
(中略)
「ところで、かういう懐石を頂いたあと、おうす(薄茶)を一ぱいやると、これが又何んともいへずいいもんだ、どうだ、一つやつてみないか」

完全にプッシャーのやり口である。

別エピソードに、馬越化生が益田克徳にハメられて茶の道に入る話もあった。

克徳が化生に、百圓で茶道具揃えてやるから、と誘い、茶道具屋に因果を含んでとても百圓で揃わぬ道具を用意させた。…これまたプッシャーのやり口である。

益田兄弟の売人力もとい人間力に頭が下がりまくりである。