茶道三年

松永安左ェ門/河原書店/1938年。

松永安左ェ門著作集(五月書房)第5巻収録。
第5巻はいろいろ入っててお得である。


茶道三年は、大部分は耳庵の他会記である。

でも冒頭は耳庵初陣茶会について。

昭和九年の末、茶器商篠田一釜庵、杉山茂丸翁の使いなりとて自動車一パイに風呂敷包みの箱類を目白の宅に持ち込んだ。
その頃までちっとも茶の気のない自分のこととてただ厚意を感謝して貰っておいた。
(略)
越えて新玉の年立つ春の昭和十年一月二十七日、兼ねての中入れに従い杉山翁にお茶を差し上ぐると案内をなし同時に福沢桃介氏、山下亀三郎氏を相伴に案内しおきたり。
もっとも福沢、山下両氏は茶が嫌いにつき「茶というてはこないから」と杉山翁の注意で普通の食事の招きとなっていたことはいうまでもない。

耳庵は政界のフィクサー杉山茂丸から道具を押しつけられる形で茶をはじめた。
ちなみに杉山茂丸夢野久作の父である。関係ないけど。

正客はその杉山茂丸

福沢桃介は諭吉の婿で電力王。山下亀三郎は船成金。

…なんの陰謀開始ですか?みたいな面子。


ちなみに福沢山下両氏はお茶であるのに気付き、逃走を図ろうとしたが、鈍翁の襲来で相伴させられる事になる。

さて肝心の主人はまるで茶を知らず、いわんや主人役の心得においてをやで、篠田一釜庵を煩わして一切の主人代理とすることにし、自分は山下君の次にお客となって終始した。
殊に茶の道具はすべて杉山翁が昨冬、篠田に持たたものを使うのであるから、その辺から考えれば杉山翁こそ真の主人格で予は宿のあるじの資格であり、すべてが翁一流の戦略にかかっていたことは後から思い当たられたことであった。

結局道具屋に代点させてんだから、分をわきまえていたというかなんというか。あと、ノセられてた、という事に後まで気付かないのはどうかと思う。


しかし、耳庵も相当周到に仕掛けられてお茶をはじめたみたいだ。

耳庵は杉山茂丸にお茶に引き込まれた、と思っていた様だが、やっぱ鈍翁プロデュースっぽくないだろうか?過去事例多数だし。