益田克徳翁伝

大塚栄三/東方出版/2004年。

我々には非黙、という号の方が馴染み深い、益田克徳の伝記。


我々が非黙を考える時「鈍翁の弟で鈍翁を茶に引き込んだひと」という以上の印象はなかなか持てない。

そういう意味では勉強になった一冊である。

東京海上保険(現 東京海上日動火災保険)の初代支配人になった非黙。

鈍翁の後妻、益田タキは語る。

克徳さんは事業の方にはあまり熱心でなかつたやうに思われます。
それはどういうわけであつたかよく判りませんが、東京海上の方などでは、同僚の荘田さんと何か意見を異にした点があつたらしく、さう云ふ点から自然に熱中することが出来なかつたのではないかと思はれます。
何しろ毎日家を出て会社へ出勤することはしましたが、何時も会社の前を素通りして、会社の先の伊丹の店へ立ち寄り道具を見たり話をしたりして、それから漸く会社へ行くと云つたやうな風でしたから、会社にゐる時間と云ふものは至つて短かつたに相違ありません。

三井物産東京海上保険、という当時を代表する大会社を牛耳る兄弟が、そろって時に会社をないがしろにする程お茶狂い、というのもすごい話だ。


なお本書、出版は2004年だが、執筆は昭和15年。著者は益田家にこの原稿を提出したが、刊行されずに死蔵されてきたものらしい。

益田タキは語る。

克徳さんのことを思ひ出すにつけ、第一に感ずることは、克徳さんが、益田家にとつて最も大切な人であつたと云ふ事です。
(中略)
つまり克徳さんの考へが兄弟三人の中で一番勝れてゐたのです。

うーん。経緯からして、お抱え伝記作家が依頼で作成したものなのか、ちょっと益田克徳礼賛が過ぎるかもしんない。

益田克徳翁伝

益田克徳翁伝

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