南坊録の研究2 利休の言葉 朝がほの茶の湯

本書には、南坊録の研究以外にも、いろんな利休伝書の研究も収録されている。

朝がほの茶の湯の事、初め花をいけ、後懸物をカフル事也。
朝がほ明日イケンと思ふて宵から切候てイケテ置候ヘバ ツル ロクニイナヲル物也。
それを生る也。

上記伝書は天正元年南坊宛。

著者は、利休と秀吉の朝顔の茶とはまた別の、朝顔を初座に飾る茶の湯が利休により工夫されていたのだと言う。

朝顔茶の湯のエピソード、伝承によっては客が秀吉とは限らない。
だから天正元年にあっても構わないのだが…。


天正元年頃に高山右近が南坊と号していたか、利休の弟子であったか、というのも吟味しなきゃいけないけど、天正元年頃に初座に掛物、後座に花という習慣は無かったと思われるので、その点だけでも偽書だと思う。

しかして、今の利休の作意の中に注意しなければならないのは、ロクニ物をなすことについて、自然の力でそのやうになるのを期待してゐることである。

しかし著者はあくまでも偽書であろうという疑いは持たず、真正のものとして、その文脈で解釈しようとしている。


南方録自体が偽書で、そして伝書が偽で…。でもそれを真と信じて、理想のお茶を読み解こうとしていた。

私は南方録は、実山かその周辺の人物が利休に仮託して理想の茶を書いた本だと思っているが、その意に沿う様に解釈してあげる、という行為も、これもまた立派な利休への仮託であって、書いた側と読んだ側が同じ志を持っている、というだけでも、幸せな時代だったんだなという気がする。