大谷光瑞全集 8巻 趣味篇
大谷光瑞/大乗社/1935年。
「猊下、猊下、げ、いか」の大谷光瑞(違う)。その全集の、趣味人的な部分を集めたのがこの本。
内容的には食と花と陶器のお話。残念ながらダイレクトに茶の湯の話はない。
食のお話。
猊下はラディカルで、すんごい食通っぷりを見せてくれる。
中国料理に関する記述:
鼠
鼠は不肖數ば之を食へり。極めて美味なり。
鼠の強力なる繁殖率を、天然に抑制せるは、一にこの美味なり。
鼠にして美味ならざれば、恐くは他の動物は、この矯捷なる小動物を捕捉するに困難と労とを忍ばざるべし。
(略)
蛇
蛇は美味なり。
嶺南第一の料理にして、頗る盛饌なり。不肖も數ば是を好み、香港に、廣東に遊び、是を食す。
(中略)
邦人はその大部分を嫌忌者とす。
蛇の名を聞き、その味を問ふに至らず。偶ま津を問ふ人あるも、その皮の紋を見、箸を下すに躊躇せり。
蛇はその肉を極めて細分し、鶏肉に混じ是を煮る。故に羹中若し皮紋を容れずば、人その眞偽を疑ふ。故に庖人はその眞物なるを表せんが為に、特に皮紋を雑ゆ。
一回や二回食べた程度ではこの文章は書けないよなぁ。
また、驚いたのが、中華の調理方法に関する考察。
他日支那に電気熱を利用するに至らば、庖人は火候を案ずるに困難なるべし。
中華の料理人はオール電化に最後まで抵抗しそうな勢力。
75年前に既に考察されていたか。
あと、猊下曰く:
近時の女學校は皆是を教ゆと雖ども、その教ゆる所肯綮に當らざるを以て、之を學ぶもの、その由て來る所を知らず。食は口に入れ味を生ずるに拘はらず、眼に見てその形を知るに過ぎず、
是を以て主婦たるもの、能く調理を行う能はず。夫をして交友の務を全からしむ能はず。不肖は敢へて是を主婦に責めず、寧ろ男子の罪なりと信ず。主婦無能なれば、夫之を教へば可なり。
この頃の女性は、旦那が遊び歩いているのを家で待つ身分。
だから美味しいものを食べに連れていってあげてない旦那が悪いんだ、という論調なんだろう。