槐記15 中柱

享保十三年八月二十一日:

世間一統ニ、圍居トサヘ云ヘバ、必ズユガミ柱ヲ立ルコト如何ナル譯ニヤ、
定メテ田舎山居ノアルニ任セタル風流洒落ナラント存ズ、夫故ニ拙此度ノ圍居ニ、
ユガミ柱ヲ忌デ、直ナル柱ヲ立タリ、而シテ後ツクヅク詠メテ、初テ感ズ、
昔人ノ仕置タルコトノ、後世用イテ不止ハ、能〃譯アリテノ事ナリ、
壁止リノ木ヨリ上、正直ニ細クシテ、壁土ヲ見ルコト多ク、下ガ明キタレバ、何ト
ヤランユカフキナルヤウニテ、濟マヌモノナリ、
ユガミガ入レバ、壁トマリノ上ガ、壁土各別ニ細ク、上ニテハ又開キテ、色々ニ廣狭ガアル故ニ、正直ニモナシ、細長ニモ見ヘヌ故ニテハアルマジキト申上グ、
如何ニモ左アルベシ、夫モ直ナルヲ仕テ見テ覺エタル實見ナリト、仰セラル、

山科道安の体験より。

「世間では茶室と云えばゆがんだ中柱を入れる事になってますよね。
多分田舎屋に習った洒落なんだと思うんですよ。
私はゆがんでるのが嫌なので自分ちの茶室ではまっすぐの柱を入れてみたんです。
で、立ててみて判ったんですけど、昔の人のやる事がいまも続いているのはちゃんと理由があるんだな、と。
まっすぐの柱だと袖壁の面積がなんだかでかいし、下の方も広すぎる気がするんです。
ゆがみ柱だったら、途中がへこんでいるのでいい感じに見えると思うんす」
「そうだね、でもやってみて学ぶってのもゴイスーだね」

みたいな会話。

中柱が歪んでいるのに疑問を感じ、まっすぐな柱を建ててしまう山科道安の茶バカぶりにびっくりだ。

…本人ちょっとやっちゃった感があるだろうなぁ。

でも翌二十二日にゆがみ柱の寸法を聞いているので、きっとさくっと直したんだろう。