へそ茶10 十能自慢

故大住清白は石州流を學び、根岸の里に住して衒氣多き茶人なりしが、或る時濃茶手前中、過つて釜の蓋を爐中に落としければ、一座驚きて手に汗を握りけるに、主人は泰然として驚かず、頓て水屋より同形なる換蓋を持出したる其蓋を見れば誂ひ向に釜に取合ひたるにぞ座客は再び喫驚し、扨て/\嗜み好き茶人かなと一時評判なりしが、

大住清白は風月堂の主人。ごーふるごーふる。

ある時、釜の蓋を炉に落としてしまったが、慌てず騒がず換え蓋を持ち出して、評判となった。

其後或る茶會に下火の甚だ少ければ迚も覺束なしと見てあるに、案の如く鎭火してける時、主人は泰然として驚かず、兼ねて大自慢の十能に火種を盛りて出で來り、
(中略)

その後、別の茶事で、下火が消えてしまったのを、慌てず騒がず自慢の十能を出して乗り切った。

忽ち茶人間の大疑問となり、扨ては曩に釜の蓋を爐中に取落したるも、豫て換蓋を用意し置きて一狂言仕組みたるならむと早くも化の皮の引剥かれたるを清白宗匠知るや識らずや、衒氣は老後までも遂に消滅せざりしとぞ、

お陰で「準備万端の上でわざと失敗してる」とバレてしまったが、大住清白の衒気は消えなかった。


マッチポンプとはこのことか。

教訓としては、同じ事でなくとも同じ意味合いの作意を繰り返すべからず、という所。


でもむしろ一度はやってみたくもある。

私も茶筅を転がして建水の上で洗ったりしてみたいぜ。