へそ茶12 唐紙障子

江戸千家川上不白の流れを汲む川上宗壽なる宗匠ありけり、
(中略)
或る時、其出入先にて、根岸の里に住ひける某華族の新席開き茶事に招がれ、時刻より早めに參着せしに、其餘りに早過ぎたる爲か、待合の入口も開き居ざれば、頓て玄關より取次を乞ふて、川上宗壽參上したりと申入たるを、

江戸千家川上宗寿が新席開き茶事に招かれた時、あまりに早く来すぎてしまった。
仕方なく玄関で「川上宗寿が来たとお伝え下さい」と申し入れた。

山出の下女が取次ぎて、唐紙障子が參りましたと御前に披露に及びければ、主公は何の疑ふ所もなく、新宅の唐紙障子が出來したるを、今しも建具屋が持參せしものと思ひ、左らば玄關脇の物置に入れ置けよと御沙汰有り、

田舎者の下女が取り次いで「唐紙障子が来ました」と伝えたので、亭主は「新宅用の唐紙障子なら物置に入れとけ」と返した。

取次ぎの者は直に川上を右物置に案内しければ、宗壽は何やら譯が分らず、物置の片隅に腰打掛けて待てども/\音沙汰無きに、

川上宗寿は物置でぽつーんと待つはめに。

扨て何とせんと困じ果てたる折柄、一方は茶客の揃ひたるに、川上宗壽のみ未だ來らず、何故の遅參か至急使者を差立てよなど云ふ混雑を、宗壽が物置より聞き付けて、始めて間違ひの由來を知り、主客一同抱腹絶倒せしが、此事傳へ/\て大評判と爲り、果ては落語の種にまでなりたりとぞ。

亭主は亭主で川上宗寿が来ないので、大騒ぎ。
宗寿が騒ぎに気付いて物置から出てきたのでやっと何が起こったか判り、大笑い。
結局この騒ぎは落語のネタにまでなった。


教訓は…無理して言えば「迷惑だからあんまり早く来すぎるな」かも。

しかし、この話をネタにした落語と言うのは本当にあったのだろうか?
落語のネタになる程世間の評判になったのは、どう考えても箒庵が書き立てたとしか思えないよな…。