茶道と香道5 茶道の心得

茶道の心得の章から面白いトコをちょちょっとつまむ。

又我より先に客ある時は一寸目禮して其前を通り進み床前より次々見通り(後略)

まぁ客入りの文章としては普通ですが、その注釈がちょと面白い。

前を通るを失敬なる如く思ふは禮を知らぬ人也
後に通るべき入り側あるに前を通るは失敬なれど背後に道なきを無理に通るは失敬も又甚しき也

ビジュアルを想像すると笑える。

相客はすべて其身分及び年齢等によりて自然と座の上下は定まりある物なれば傲然とかまへるこそ惡しかれめ我上座たるべき事當然ならば強て争はずして然らば御免と挨拶して速に座を定むるが可也
強たりとて下たるべき人が上へ座らるゝ物ならぬは知れ切れたる事なるを猶争ふは人困らせ也

ここで言えるのは二つ。

昔は身分制がはっきりしていたので、上座下座はむしろ納得づくで簡単だった。

そして、(この時代のいろんな茶書にあるんだけど)上座下座はあらかじめ決まっておらず、現場合わせだったって事だ。

座 兩足の拇指を重ねて男子は膝を(中略)明治の人は椅子に馴て座は不得手なれど拇指を重ねて折々上下し動かしをれば長座になりても足痛まず痺のきるゝ事なし

明治時代の人々も正座は苦手だった、というのが判って面白い。
「戦後は正座しないので身長が伸びた」というのは嘘で、ひたすら栄養の問題だったんじゃなかろうか?

流儀により何事を為にも臂を張て構へる樣に教ゆるもあれど男はともあれ女の張臂は見よき物に非ねば(中略)
夫には表の流を第一等とす裏を始他は皆跡より出來たるなれば派手なる事も多し表は只めだゝずなだらかなる中に法則ありて略しても毀さゞるを斯道の熟練とする事也

表の美意識はこの頃から変わってない気がする。逆に言うと当時から表千家の視点では裏千家の手前は派手だと思っていたという事か。