家元ものがたり

西山松之助/秀英出版/1971年。

「家元制度」ではよく言われる完全相伝制と不完全相伝制の話が語られる。

家元制度の特徴は以下の通り。

一 家元があらゆる一切の免許権を独占している。
二 右のような性格から、家元の直弟子・孫弟子・又孫弟子ができて、いわゆる名取制度と言うものが成立する。
三 弟子たちは、家元の流儀銘を与えられて、名目上家元の家族の一員という組織に組みこまれる。

今では千家の様な家元制度は、あまりに普通になってしまって上記を読んでも「それで?」ぐらいにしか思わない。

しかし。

日本の文化伝承は、古代以来、家元としてその家芸を秘密相伝として皆伝などしてきたのであるが、江戸時代に及ぶまで、皆伝を与えられると、その与えられた人は、改めて自分がその芸の主人公となって、自分の弟子に免許皆伝をすることができたのである。
つまり、相伝する権利をも相伝されたのである。
いわば完全に相伝されたわけで、私はこういう相伝法を完全相伝と呼ぶことにしている。

うちの流派も家元無しの完全相伝制である。

これに対して、家元制度の場合は、どれほどわざがすぐれて皆伝になっても、免許状を発行する権利は一切家元が握っていて、絶対にこれを弟子に許さない。

こちらが不完全相伝制。


許認可権は即ち金の流れ。

完全相伝制の場合、師匠の師匠に*も*礼金を出す様な風習が場合によってはあるかもしれないが、本質的には直接師匠に支払う。

不完全相伝制の場合、本質的には師匠の師匠の…である家元にお金を支払う。
では師匠や師匠の師匠はどんなメリットがあってやっているかというと、家元に認可されて教室を持てる、というメリットを享受している、という事なんだと思われる。