高谷宗範傳 総括

さて、一冊読み終えた所で、高谷宗範についてまとめてみよう。


高谷宗範はどういう人だったか。


1.高谷宗範は『まじめ』であった。

真面目すぎる程真面目にお茶の事を考えていた。
これは誰にも否定できまい。


2.高谷宗範は『やぼちん』であった。

しかし、自分の真面目さを、他人にも強要しようとしてしまった。
これは「たのしければいい」他の数寄者には迷惑だった。


3.高谷宗範は『愛妻家』であった。

他の数寄者茶人が妾を囲い、馴染みの芸者をネタにお茶会を開いていたのを考えれば、宗範の存在は煙たかったかもしれない。


4.高谷宗範は『愛国者』であった。

宗範が愛国者であった事もまた、否定できない。
茶の道に愛国を持ち込む事の是非はともかく。


5.高谷宗範は『間の悪い男』であった。

彼は国が泥沼の戦争に入る前に死んだ。

彼は、翼賛体制を利用して自分の愛国心を広めるという事ができないまま、世を去った。


6.高谷宗範は『運の良い男』であった。

彼は国が泥沼の戦争に入る前に死んだ。

彼の愛国は翼賛的に使われる事もなく、それ故に後世に悪評を残す事もなかった。


7.つまり高谷宗範は『からまわりした男』であった。


人として真面目でまっすぐな人間が、それ故に同時代でも反感を買った。

時代が要求しない事を時代に要求し、時代が要求する事を為さぬまま、この世を去った。


しかし彼が戦争の時代をうまく立ち回れたか、大変疑わしい。

わたしは彼が「からまわり」で終った事を「大変良かった」と思っている。



財界数寄者の裏返しの様な彼が、闊歩していてそれなりの存在感を放っていたという事が、当時の茶の湯の豊かさを示しているのではあるまいか。