講座日本茶の湯全史23 茶の湯の名物記

矢野環著。

茶の湯の名物記研究の概観。

本稿によると、名物記というのは研究が進んでいて:

実際多くの文献を提供し、茶道研究にとって画期的であった『茶道古典全集』においても、名物記関係の底本は必ずしも探求が十分でなく、適切でない写本が翻刻されたものがある。
(略)
茶の湯研究(また美術史の一部)の専門家ならびに大学院生の間では常識となっているこれらのことも、日本国内ですら一般には必ずしも知られていない。

茶の湯研究者に既に常識な話も、茶人や市井の研究家(例えば私だな)には常識でないことがある、らしい。

確かに「茶道古典全集」以後、古典資料へのコンセンサスが更新されたことはないといっていい。学会内や研究会レベルで細々と翻刻を頒布しているが、それでは新しいコンセンサスを形成する事はできないだろう。

『大正名器鑑』は明らかに先行事業を参考にしている面があるが(略)
ただし、伝来はさまざまな資料を無批判につなぎ合わせており、大半の名物茶入の伝来は誤りがある。
にもかかわらず、辞典類でもその孫引きが羅列されているのが未だに現状である。

紹鴎茄子の記述に間違いがあるのは戦前に高橋梅園が告白しているが、それでも直らないのだから、「真実がどうか」はどうでもいいのかもしれない。

茶人にとって必要なのは、お茶を共同で楽しむためのコンセンサスだけだから、じゃないかなー。

んでどーゆーことが判ってるかというと:

山上宗二記』は(略)
「珠光所持名物」は天文期には「珠光茶碗」のみであり、他は永祿以降に作られた伝説であることや、(略)

うーん。でも投頭巾が珠光名物で無い、なんて知ったって、誰も得しないってトコにこの研究の問題があるのかもしれないなぁ。