詩集利休3 千宗旦

千宗旦


からうめがさいてゐる
きろいそめいろが しみる
たびびとが それをみる
しぐれが やまぢをぬらしてとほつた


こころすまさうと
このやまざとの かけひのみづ
稲妻し ひのくちみぇ
かそけきこゑ
あめつちのちから まつかぜのおと
まつかぜのおと


ねざめのうつつ きれぎれに
つきてりわたる あきののの
あきののの あきむし
なくね はてな
つきてるなかの あきむしのね


しとみにふきいる しなとのかぜ
しばのとさびし かぜのおと
しみじみこころが ふかれてゐる
崇々と もののあはれ
寒雲が 遠々と蓬窓の夢みるけはい


語らむとの とはぬ日は
よするうしほも いろかなく
うつむらさめに そふものなく
焚藻のけぶり しづかにて
ゆくへもかなし しほがまのうら


夕月かげは 末黒の遠方に
きゆるまで
きえてものこる みちのまことは
けぶる野火 さびしき野火なり

「からうめがさいてゐる」の連。
山路の冬の印象である。

「こころすまさうと」の連。
心象っぽいが、稲妻が気になる。

「ねざめのうつつ」での連。
急に秋の印象に変わる。

「しとみにふきいる 」までの連。
古屋の寂しさを、乞食宗旦に重ねているのだろうか?

「語らむとの」から「夕月かげは」の連。
「しほがま」は宗旦との関係性を見出せない。

全体に寒い海辺と言う印象が有るのだが、宗旦には似つかわしくない。

もしかするとこの詩全体が源氏物語の明石の段あたりに重ねていて、貴種であるところの千宗旦、という存在を表現しようとしているのかもしれない。