喫茶南坊録註解26 火相

滅後より、津田宗及の客ぶり。

或暁ニ雪ニテ面白カリケルニ、宗及フト思立テ利休ヘ参ラレタリ、
(略)
名香遠ク薫ジテ残燈幽カナリ、扨コソ蘭奢ナルベシト早利知ラレシトナリ、
及ハ香方ノ達者ナリ、
(略)
主客差向ヒ何カト物語アル内ニ、水屋ニクヽリノアク音シタリ、
易被申ニハ醒ヶ井ニ水汲ミニ遣ハシタルガ遅ナハリテ、只今来リタルト覚候、
(略)
宗及其儘臺目ニ行キテ見ラルヽニ、寅ノ火相云ニ云ハレヌ流也、
棚ニ炭取ニ炭組テアリケルニ、宗及取オロシテ炭ヲ少ヽ置添ヘ、
羽帚ニテ臺目ヲハキ待レシニ、利休茶口ヲアケテ釜持出ントセラルヽ時、
及ノ云、火相勿論ニ候、水改リ候ハヾ一キハ火相御強メ候ハント推量申候故、
御老躰ヲイトヒテ某炭ヲ加へ置候由被申、
休殊ノ外感心シ、ケ様ノ客ニ逢テコソ湯沸シ茶ヲ立ル甲斐ハアレトテ、此客ブリヲ後迄モ語出サレシナリ、

津田宗及は雪の夜に、利休に不時の茶を求めた。
案内された待合には、えも言われぬ香。蘭奢待である。
席入りし、しばらく歓談していると、水屋に音。名水が到着である。
利休が釜を上げて水屋に下がったので、
宗及は、濡釜を沸かすには火が弱いな、と炭をついだ。
利休はその客の働きに大いに喜んだ

というお話。


すごく美しくて、いい話である。


南坊録では、火相というのを大事にしている。

理想としては亭主が準備して釜を火に掛け、来客があって、食事していただいて、釜の水温が最高の状態のタイミングで、濃茶をお出ししたい。

そのために、主客がタイミングを計って協力プレイで頑張るのをヨシとしている。


この話でも、宗及が気を利かせて強火で待ち構えているのが、利休の琴線に触れた…という事になっている。

のだが。


その文の後半。

此火相ヨキ内ニ茶進シ度トノ挨拶ニテ、未ダ闇キ内ニ懐石出サレ、食ノ間ニ夜明ケタリ、

火が強すぎて、進行が早まっちゃったっぽい。本当にいい話なの?コレ。


さて、解説。

蘭奢待ハ本朝名香中ノ魁ナリ。
(略)
織田信長勅許ヲ得テ、之レヲ截レリ。

蘭奢待に関し、極めて重要な解説を著者はしていない。


蘭奢待は信長が切り、利休に下賜したものだが、同時に宗及にも下賜している。

誰がこの貴重な香を、同じものを持っている人の為に焚くだろうか?

柴山不言は天王寺屋会記を読んでいなかったのだろうか?
南坊録の著者は読んでいなかったと思うが。