天目茶碗考
塚本靖/學藝書院/1935年。
塚本靖は東京帝大の建築学教授。
この本を出した2年後に死去している。本書は遺作ということか。
ただし内容は大正五年の雑誌掲載からの再録である。
まず、最初に天目茶碗を定義しているので、それを見て行こう。
天目茶碗とは何ぞや
天目茶碗は點茶の用に供する一種の陶製茶碗で、左に載する如き特徴を具ふるものゝ概稱である。
一、其燒上り素地は白色(純白磁器の素地の如きを云ふのではなく、幾分黄褐色を帯べるもの)若くは褐色にして堅質不透明で、気孔の少なきもの。
素地は素焼に近いと思うが、確かにきめこまかい。
ここがあらあらしいざんぐりしたものだと、天目らしくないのでこの限定は正しい。
一、釉色は概して暗色にして光澤がある。
白天目などは国産だから、正規の天目からは除外しているのかもしれないが、「概して」に含まれているのかもしれない。
…定義に「概して」は如何なものかとは思う。
一、形状は漏斗形即底狭く、口の開きたる形、俗に云ふ朝貌形で口邊に轉換曲面を有し、高臺は小さくして低く形體稍々安定を缺く。
(故に之を臺に乘せて取扱ふのが普通である。但天目臺使用の理由は唯單に此一事に止まるのではない事は後に説く)
斯く其外觀安定を缺ける為に、其缺を補はんが為に、概して口邊を薄く、底部を厚く造つて居る。
猶之を他の陶磁器比較すると厚手である。
口辺に鼈口があること、朝顔形であること、高台は小さいことは判る。
口辺が薄く底が厚いのは、茶碗としては割と普通なので特徴といっていいかどうか?
確かにやや厚手な気はする。
一、高臺底の面は側方曲面とは連絡して居らぬ。
すとんと底がそっけなく切られている。
…大きさの話がないな。
私の知る天目は、小振りで湯のみ茶碗サイズ。
各服点てしか考えてない時代の産物なのだと思う。
君臺觀左右帳記に、天目を土の物として、之を茶碗と區別して居る。
大正時代には、天目は茶碗と別、という認識があったわけか。
興味深い。