けいこと日本人13
二松学舎大学の言語表現講座では、(略)節の巧拙はほとんど評価しません。
しかし、姿勢・態度についてはきびしく採点します。
著者は上記の講座で能を教えたんだとか。
なるほど。芸を極めるのでなければ、姿勢や態度を整える方がよっぽど役に立つし、実践的です。
ただしい姿勢・態度が芸の入口には必要ですもんね。
第一に背筋を伸ばし肩の力を抜いて大声を出すことができない人が存外多い。
第二に間違ったとき、他人が笑う前に大仰にずっこけて笑いだす。
(略)それでも自制することがむつかしいのが当代の大学生です。
箸が転んでもおかしい、という奴ですな。
これもわかります。
「そのときになればできる」と思っているのかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。平素から姿勢に注意し、稽古中とちっても、「今間違えたのは隣です」というぐらいの顔ができなければいけません。
あれ?思ってた流れと違う?
本番中間違えても、それに気付く人は幾割かです。
言い直し、やり直したら全員にわかります。
ニヤリとしたら「不謹慎な」と満場の顰蹙を買うだけです。
プロとは、間違いを犯さぬ人ということでなく、間違いをいかにうまく胡麻化すかに熟達している人と言っても過言ではありません。
失敗をあらわにすることは自分自身の恥であるばかりでなく、他人を巻き添えにしたり、舞台・一日の催しをめちゃめちゃにすることすらあります。
姿勢を崩さず、誤りを表面に出さぬようにするには不断の心がけと修練が必要です。
ああ、そっちか…。
お稽古の時は「すいません、建水を上げ忘れてました」とか言いますが、それはよした方がいい、という話ですな。
なにくわぬ顔で、ここで建水を上げるのが当流です…という感じで、気付いた時に上げればいいんです。それを客前でやれるようにするには、普段のお稽古でも、何食わぬ顔でやれるようにしなければならない、ということ。
まぁお稽古の時は先生が気付くんですけどね。
うちの先生はよそ見してても音で気付いて指摘してくるし、離れた水屋での失敗も、音で聞きつけて来る鋭い人なんですが、大寄せではお客さまに趣向の説明に一生懸命になっています。それをいいことにお点前を大胆に間違えて、しれっと済ませたことがあったなぁ…と思い出しました。
先生は私の失敗に気付いてないから後で誉めてくれたし、私は無事にお点前を終えたし、お客さんも「ああ、そういう流派なんだろう」と思ってくれたしで三方丸くおさまりましたな。めでたしめでたし。