家庭料理講義録十月号紅葉ノ巻2
世間で評判する滋養剤ととか滋養物とか云ふものゝ中には随分如何はしい物もありますが、かう云ふ物に對しては世の中のすべてを支配して居る科學上より研究して、之に適切な世評を加へると云ふことが頗る大切で、また世の中を利する事も多いと思います。
例へばヨーグルトであります。
これはフランスのメチユニコフと云ふ人が、不老長壽の目的によいと云ふ事を唱へたので、一時非常に盛んに行なはれました。
メチエニコフはロシア人。マクロファージの発見でノーベル賞を獲得した。
この人が、乳酸菌で腸内大腸菌を駆逐すれば長寿になる、とヨーグルトをひろめたらしい。これ100年以上続く民間療法だったんだね。
それに対する額田さんの対応がしょっぱい。
ヨーグルトは酵母の作用によつて、牛乳中の乳糖を醗酵させたものであります。
故にその味は稍酸くありまして餘りよいとは申されませぬ。
その上果してメチユニコフの云つたやうな効果があらうとは我々にはどうも信じられませぬ。
多少の効能と云ふべきは、便秘を程よく和げるとか又は下痢をとめるとか云ふ位の事です。
滋養上から云ひますと、何等普通の牛乳と異る事はありませぬのに味の上から云ひますると無論牛乳より劣るのであります。
故に大抵レモンを加へるとか、砂糖を入れるとかして飲んで居るのであります。
そう言えば乳糖で下痢をする人以外にはさほどの違いはないし、加糖しないと食べれないようなものをわざわざ摂取するのはおかしいことだ。
100年前の本に書いてあることの方が、現代より理路整然としているのはどういうことだろうか?
かう云ふものですから、決して惡いものではありませぬ。
即ち惡いと云つて止めはしませぬが、さりとてまたメチユニコフの云ふやうな事を云つて萬人に勸る程のものではありませぬ。
別にこれによく似たものでケツヒールと云ふものがあります。世人はヨーグルトを持囃してケツヒールを賞しませぬが、我々は却つてケツヒールの方が今云ったやうな目的には叶つて居るとおもふのであります。
ケフィアも既に知られていたのか…。
ヨーグルトは漠然と「健康にいい」と広まったものではなく、「ヨーグルトを常食しているブルガリアには長寿が多い。ヨーグルトを常食して長寿になろう」ということで広まった。
この頃の日本の平均寿命は50歳未満という状況なのでそれなりに意味があったかもしれないが、現代長寿国になった日本でヨーグルトって必要無いような…。