家庭料理講義録十月号紅葉ノ巻6

「西洋菓子の製造法=果實の保存法=」より。

今回はホントお茶関係ないのだが…。

西洋の家庭では、「シャベツ」或は「アイセス」と云ふて、果實を「アイスクリーム」の樣に氷固して食用します。
茲に述べます果實の保存法は、斯ふしたものを造るに使用するもので有りますが、我國の家庭には、未だ一般に「アイスクリーム」製造器が行き渡つて居りませんから、此の保存法に依て保存された果實を、氷水に混じて清涼飲料としたり、「ジエラチン」を使用して凝固させる菓子に使用すれば、見端と風味の佳良なる菓子が出來るので有ります。

冷蔵庫の行きわたっていなかった大正日本で、果物の保存法としては冷蔵とはいかなかった。そこで採用されたのが:

壓潰し苺(Crushed Berries)

製造手順 良く熟した苺を澤山の水に入れ、土砂を洗ひ落して、蒂を取り去ります。
之を目の荒い篩で裏漉するとも、壓潰すなりともして、果實百二十匁に對して、砂糖を六十匁から七十匁の割合で混じます。
而して良く撹拌して混和したものを、ビールの空瓶などに、殆ど一杯になるまで入れます。
之を底の廣い鍋なり釜なりに、藁を一二寸の厚さに敷いたものゝ上に並べて置きます。
而して瓶の首まで達する程の深さに水を入れ、之れを火にかけて徐々と烹立てまして、煮立つてから十二三分經過ましたら、出來る丈シツカリと「コロツブ」を詰めます。
而して絲か或は細き針金で口を箝り、涼しくて暗き處、例へば椽の下の樣な處に保存して置くのであります。

コロツブはコルクの事。
つまり瓶詰めの作り方である。意外やジャムの製造法ではなかった。

保存した苺の使用法に「パンに塗る」がないのも注目点かもしれない。

なおこの後も説明は:

壓潰し桃と杏(Crushed Peach and Apricot)

壓潰し果實無砂糖保存(Preserved Fruit without sugar)

壓潰し果實不加熱保存(Cold Preserve of Crushed Fruits)

などと続いていく。

字面が凶々しい。現代のジャム作りのキュートさがかけらもない。「女殺油地獄」みたいな感じである。

よくぞここから「カワイイ」文化を生み出せたもんだ。