懐石料理とお茶の話 八百善主人ものがたり3 数寄者の注文

八百善に対する、鈍翁の注文。

又こんな御注文もありました。
向附にまぐろのとろが欲しいと云うのです。

トロを向附というのは「そりゃどうよ?」という感じもするが、当時としては斬新な食材だったのかもしれない。


この当時のまぐろは小売しているものでなく、寿司屋や料亭がブロックで購入するもの。最小の購入単位は、まぐろの8分割したものである一丁。

するとお懐石の向附に五人や六人の分量はほんの僅かなものですが、この為めに魚河岸で一丁買って来ます。
そして当時は今日の様な冷蔵庫はありませんから、その残部をその日の内に他のお客さまにと申してもなか/\都合よく店にお客さまが見えなければ、その一丁は大部損になります。
さりとて懐石の五六人分にまぐろ一丁の値段を盛込むことも出来ません。
実に困った御注文でした。

この話に限らず、いろいろな数寄者の困った注文がこの本には載っている。
どうやら数寄者の懐石の注文、というのは全然引き合わないものらしい。

…でも、それでもやるってんだから、余録が大きいんだろうなぁ…。