詩集利休5 藪内紹智
藪内紹智
あかつき闇に篝火が消えた
なまじい明々と火の氣があつた故に
闇の深さが積つたか 殊更闇い 闇い
爐邊
そこに孤りの座
いにしへの時劫が刻む
落松葉の眠り
露地は音もない
静寂の垣 思念の籬
炭火が祭禮の心のやうに■*1つて來た
劒仲 劒仲 誰かが呼ぶ
輕羅の重さ
水が水から湯になつて湯になる韻
金針を打たれたやうに電氣を感じた一瞬
夜陰と明時の結び目
曙と光とのけじめの一堺
夜と晝との繼ぎ穗 移り目が解けた
この人はその一閃時
森羅萬象を紫色に感じた
それよりも早く有無を言わせず
心を紫いろに染めながら心しづかに
一服のみ終る
朝
孤影はまだくづれない
日が照りはじめた
庭に挨拶した
庭が挨拶した
鷽
聲が
木の間にくりにきこえる
この人は
天地の氣合を無心で
聽いてゐる
この詩の要は「露地は音もない」。
利休も、織部も、もう訪ねて来ない、ということである。
藪内紹智を傍観者として鮮やかに?描き出している。
そう、本人はほんと、なにごともないしなんにもない。無事の人なのだ。
「庭に挨拶した」のアホっぽさも、ある意味アクセントか。
*1:火+畏 読み:おこ