茶人の旅10 殿様

広島藩の茶湯」に、30年前の上田宗箇流の話が載っている。

私が御訪ねしたとき、十五代当主の宗源氏は、免状授与の儀式の最中であり、若宗匠宗嗣氏にお会いした。
一万石家老の嫡流は爽やかな好青年である。
「父は今でも殿様です。家元とか、茶湯の宗匠とかは、全然思っていないようです。上田流を守り伝えれば良いと言っています」
十五代続いた一万石の家系と、宗箇の作り上げた上田流という茶湯を、真剣に守り伝えるという矜持は、老骨に一本の太い芯となって強く通り、近代茶道とのギャップを冷静に見つめていられるかも知れない。

爽やかでよい話である。

上田流の伝承・伝播媒体であった野村・中村両家のうち、野村家は原爆で断絶し、中村家は健在であるという。

本因坊の「原爆対局」みたいなのは、生き残ったからお話になるんだよな…。