萬寶全書

手元に萬寶全書という袖珍がある。

袖珍ってのは細長い和書。和綴じのポケット版書物である。

萬寶全書の奥書は元禄七年になっている。つまり1694年。

茶書が続々出始めていた時代だが、こういうものを袖に忍ばせるぐらい、茶の湯文化は隆盛になっていた、という事だろう。

さて、この時代。すでに名物道具は殿様の物。
こういう本に載っている情報はどんだけ正しいのだろうか?

例えば新田肩衝はこう書いてある。

一 仁田 新田共云 大友所持
竪 二寸八分
横 二寸五分強
廻り 八寸一分
底一寸五分
糸切

では、大正名器鑑実見記で新田肩衝を索いてみよう。

【寸法】
高 八・五(二寸八分)
胴径 七・七(二寸五分強)
胴廻 二十四・五(八寸一分)
口径 四・五(一寸五分)
甑高 一・四(五分弱)
肩幅 一・〇(三分五厘)
重量 一二〇・〇(三二匁)

とある。

驚くほどの一致である。
しかも萬寶全書にしかない情報もあったり。

元禄時代に誰がこのサイズを計り、伝承していたんだろう?
柳営経由水戸藩所有物である。物差し持って気安くアプローチできる代物ではないと思うんじゃよ。

謎は深まるばかりである。