日本茶の湯文化史の新研究

矢部誠一郎/雄山閣/2006年。

茶道系古本屋で良く並んでいる立派な研究書っぽい本。
“新研究”とはなんであろうか?

「はじめに」より。

日本茶道史の研究に手を染めてから早四十年の歳月が流れた。
(略)
日本茶道史の中でも、他の人が手懸けていない分野の研究をするように努めてきた。
数少ない拙論をまとめて、自己の存在を自分で確かめようとして成ったのが本書である。
書名に「新研究」と付けたのは、そうした意図からであって、衒うつもりは全くない。

矢部誠一郎は1941年生まれ。著者が65で出したのがこの本である。
ということは25くらいから茶道研究にいそしんでいたんだろうか?

では第二章「千利休と茶人達」から、どーゆー“新研究”なのかチェックしてみる。


利休の出自について:

利休の家系について最もまとまって書かれたのが、茶道家元の表千家所蔵の「千利休由緒書」である。
(略)
この「千利休由緒書」に最初に挙げられているのが、利休の祖父「田中千阿弥」である。
(略)
由緒書にいうように、道悦が同朋衆であったことが真実ならば、将軍に仕えるほどの一級の芸術的才能を持った人物だったのだろう。

うむ…古くさい?

利休の父と考えられているのが千与兵衛、法号一忠了専である。
道家元「千家」は、この人物の時からの名乗りであると「千利休由緒書」はいう。
もっとも利休直弟子の山上宗二が書いて、茶道史研究の史料の中で信頼性の高い「山上宗二記」は「田中宗易」と利休を書いているから、利休が「千」家を名乗っていたという確証はない。

確証がないなら千阿弥の存在だって確証なかろうに…。

山上宗二は東山殿と能阿弥について語っているのに、千阿弥について語っていない。
むしろそこを指摘するべきなんではなかろうか?

“新研究”といいながら、いいとこ70年代の茶の湯の常識かなーという気もする。