茶道雑話 その3 桂籠異聞
赤穂浪士の討ち入りの時、偽首になった桂籠について。
今晩庵雑記という玄々斎の業體だった人の手記から知った異説を紹介してくれている。
それによると、討ち入り當時、宗偏は、吉良邸に宿つていた。
門の扉を打ち破る物音に目を覚ました宗偏は、サテこそ赤穂浪士の討ち入りなりと、直感して、眠る間も側をはなさぬ桂籠をとるなり、大屋根へ逃げ上がつた。
宗偏、なんで吉良邸に泊まっていたのだろう?
宗偏は、吉良家の者と間違はれてはと、屋根の上にじつとうづくまつてゐると、目ざとくそれを發見した浪士の一人が長柄の槍をしごくなりエイツとばかりに下から突き上げてきた。
宗偏手にした桂籠で、ハツシとばかりに、槍の穂先を受けとめながら、早まり給ふな。吉良家の者ではござらぬぞと叫んだ。
茶道具大事にしろよ宗偏。
この邊講談口調で書けばもつと面白いのだが、とにかくかうして危い生命をたすかつた。これより宗偏、右の桂籠を生命の親とも思ひて、終生身邊をはなさず云々。
あれ?この話の流れれだと、桂籠を偽首にできなかったのでは?
ちゃんと井口海仙はそこも考えてくれていた。
一方の、桂籠を、吉良義央の首代りにしたと云ふ話をジツクリ考へてみると、甚だ小説的に出來上つてゐる。僞首にするなら、わざ/\ぶかつこうな花生を利用しなくても、討死にした屍がゴロ/\してゐたヾらうから、その中のしかるべき首を僞首にすればよかつたはづだ。
その発想は無かった!
そうよね、死体ごろごろだもん。
ちょんぎって使えばリアルだよね。
しわ首がない?
76才の宗偏がちょうどいい処にですな…。